二期会 オペラ「ファウストの劫罰」

ベルリオーズ作曲のオペラ「ファウストの劫罰」は、1846年パリのコミック座で初演されています。

舞踏集団Ｈ・アール・カオス率いる大島早紀子の演出と聞いて、2007年の「ダフネ」をすぐに思い浮かべました。ダフネのレビューはこちら↓
http://turlinco.blog.so-net.ne.jp/2007-02-13
「ダフネ」の前衛的ダンスに彩られた演出は感動的でしたが、また同じスタイルの舞台かと思うと、実際観るまではイマイチ乗り切れない気分でしたが、意外に、予想を裏切る素晴らしい舞台でした。

特にここのところ、精彩に欠いた演出のオペラが続いていたので、久しぶりに充実した舞台を堪能しました。

ゲーテの戯曲「ファウスト」の第１部をオペラ化したストーリーは、人生に絶望した老博士ファウストが毒薬を飲もうとする所に、悪魔のメフィストフェレスが現れファウストの青春を取り戻してやる。
若さを取り戻したファウストは清純可憐なマルグリートに恋をするが、マルグリートの母親がファウストの毒薬を飲んで死んでしまい、マルグリートが殺人犯として死刑を求刑されてしまう。
それを知ったファウストは彼女を助けるために悪魔に仕える署名をして地獄に落ち、マルグリートは天使たちの歌声に見守られながら昇天する。
というような話のようですが、ゲーテの詩的かつ哲学的台詞が勝手気ままに舞台を漂う感じで、はっきりしたストーリーはつかみにくく、まして美しい舞台に目を取られて、字幕を追うのがだんだん面倒になってきます。

そして、その舞台は、幕開けからダンサーの重力を失ったかのような超人的動きが舞台を圧倒。
天国へ続くかと思われる階段もシンプルながら、視覚的にも美しく登場人物を立体的に演出します。
長布をまとった衣装も、舞台装置と一体になり硬質な階段に有機的要素を与え、波打つ銀布に投影される映像はイリュージョンの世界を創り出し、その創造力に溢れる舞台は、ひと時も目が離せません。
ただ幕切れの紙吹雪はやりすぎか？
十分に説得力のある舞台で客に媚びる必要はないでしょう。

クセのある登場人物は、若手男声陣の声量不足が多少残念ながらも、マルグリート役のソプラノ林正子は、よく通る高音のかすかなビブラートが美しい。
中低音にもう少し奥行きが出るともっと良くなりそう、その端整な知的容姿も、実は老インテリオヤジの青年ファウストの気を引くにはぴったりです。

東京フィルハーモニー交響楽団を指揮したのはミシェル・プラッソン。
このフランスオペラを指揮するフランス人は、「音楽ほどコミュニケーション能力を育てるものはない」という現場主義。
臨場感溢れる舞台を演出したオーケストラに、演奏が終わった後、いつまでも奏者と握手するために、ピットを歩き回っていた姿が印象的でした。

そんな感動的な舞台でしたが、残念ながら客席には空席が目立ちました。
二期会も企画に力が入りすぎてプロモーションにまで手が回らなかったのでしょうか？


2010年7月16日　二期会　オペラ「ファウストの劫罰」
LA DAMNATION DE FAUST
Légende dramatique in four parts
In the original language (French) with Japanese supertitles
Libretto by Hector Berlioz, Almire Gandonnière and
Gérard de Nerval
Music by HECTOR BERLIOZ

原作：ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ「ファウスト」
台本：エクトール・ベルリオーズ、アルミール・ガンドニエール、ジェラール・ドゥ・ネルヴァル
作曲：エクトール・ベルリオーズ
会場：東京文化会館

スタッフ
指揮： ミシェル・プラッソン
演出・振付： 大島早紀子
   
装置： 松井るみ
衣裳： 太田雅公
照明： 沢田祐二 
演出助手： 三浦安浩
合唱指揮： 大島義彰
音楽アシスタント： 佐藤正浩  
舞台監督： 八木清市
公演監督： 三林輝夫 
 
キャスト
ファウスト　： 樋口達哉
マルグリート　： 林 正子
メフィストフェレス　：　泉 良平
ブランデル　：　北川辰彦 

メインダンサー　：　白河直子
ダンサー　：　木戸紫乃、斉木香里、泉水利枝、池成愛、野村真弓　　小林史佳（欠場）
合唱　：　二期会合唱団
児童合唱　：　NHK東京児童合唱団
管弦楽　：　東京フィルハーモニー交響楽団

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