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重松清 「きみの友だち」 [ブックぅ!]


「読む人は完全に作者の手玉に取られる!」
そんな感想でした。



重松清 「きみの友だち」

きみや弟、そしてその友だちを断片的に短編仕立てで紹介していくスタイルで、
強者と弱者、いじめる側といじめられる側、
立場や状況が変われば考え方も変わる、
主人公に感情移入してしまう、そんな読者の心理をもてあそぶように、
どんどん主人公は変わっていき、
読者はもう作者の手のひらの上を転がっているだけです。

一編書き終えるごとに唇を舐めながら、
「これでどうだっ!」、と
一人でにんまりしている作者の顔が目に浮かびます。

そして、
「きみ」「きみ」って言ってるアナタって一体誰なの?
という疑問を常に頭の隅に置きながら、
読者は最後まで読み続けなければなりません。
最後から読み始めても構いませんが、
10年以上にわたる人格形成時の段階的心理の変化が、
時を追って上手く書かれているので、
やはり順番に読んでいきたいところです。

小学5年生の恵美ちゃんに怪我をさせ、松葉杖まで持たせ、
外からたくさんダメージを与えておいて、
そんな過酷な状況でがんばる「青春応援小説」ではなく、
複雑な感情をあくまでクールな行動で表現してしまうところが、
作者の力量あるゆえんであり、
リアリティーのある作品形成につながっていると思います。

ちょっとエッチなストーリーの作品も多い作者は、
「エロマツキヨシ」と呼ばれたりもして、
家族の方などは迷惑しているかも知れませんが、
思春期の性に向き合い、正面から取り組んでいたり、
見過ごしていた成長過程の不安定な心情を、
日常的な言葉で巧みに表現していたりと、
いつまでも少年以上に多感な作者に感心するばかりです。

そしてこの話の感動的な幕切れにはささやかなブーイングを送りたいと思います。


きみの友だち

  • 作者: 重松 清
  • 出版社: 新潮社
  • 発売日: 2005/10/20
  • メディア: 単行本





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