神奈川県民ホール オペラ「金閣寺」 [オペラぁ!]
第22回神奈川国際芸術フェスティバルのメイン企画、
オペラ「金閣寺」
三島由紀夫の名作小説のオペラ化で、
台本をドイツ人のクラウス・H・ヘンネベルク、
作曲を黛敏郎が手掛け、
ドイツ語上演で1976年にベルリンで初演されています。
今回は逆輸入版「金閣寺」のたかちです。
三島由紀夫の耽美小説を、
気鋭の演出家田尾下哲がどういう風に舞台を仕上げるのか、
興味津々で開幕を待ちました。
田尾下哲と言えば2012年の二期会「カヴァレリア」公演を観て以来、
洗練された知的かつ楽しい舞台作りが持ち味の、
今や目が離せない演出家ですが、
今回は少々消化不良ぎみなのか、
小説の内容を凝縮させた台本に振り回されて、
筋を追って舞台に乗せるのがやっとという感じでした。
舞台中央にドーンと据えられた金閣寺を、
最後には僧侶が燃やしてしまうという内容ですが、
いかにも良く燃えそうな金閣寺のセットを見て、
「本当に燃えたら大迫力だなぁ。」とか、
「燃えたら悪い煙が出そうだなぁ。」とか、
「そしたら明日の公演には使えなくなるなぁ。」とか、
「2つも造ったら採算取れないだろうしなぁ。」とか、
「そもそも、消防の関係で無理だろうなぁ。」とか、
「でも田尾下哲なら何かやってくれるだろう。」と期待しました。
さすがに実際には燃えませんでしたが、
中から火が上がる様相に火の粉が舞う幕切れは、
徐々に切迫していく音楽と共に、
なかなか見応えのあるものでした。
黛敏郎の音楽は、
木魚に乗せた無調性のお経コーラスのようなものや、
アメリカ兵が出てくる時にはジャズっぽいメロディーが流れたり、
また舞台の緊迫度に合わせてオーケストラの勢いを変えたり、
緩急に富み、なかなか身に迫ってくるものを感じます。
主人公の溝口役を歌ったのはバリトンの小森輝彦。
しばらくドイツで活動していたかと思いますが、
右手が不自由というコンプレックスを持つ若者が、
理想と現実の間で苦悩する様をしっかりした歌唱で熱演。
その友人で足が悪い柏木役の鈴木准も、
ハンディを抱えた若者の卑屈さを十分に表現していました。
今回は2000席を超える大ホールでの公演でしたが、
細かい事象を積み上げていく内容の台本の場合には、
大ホールは馴染まない感じがしました。
もう少し緊密な空間で、
舞台と観客が一体となれるような、
こじんまりしたホールでの上演の方が、
より三島文学独特の秘密めいた世界に浸れた気がします。
2015年12月5日 神奈川県民ホール オペラ「金閣寺」
スタッフ
指揮 :下野竜也
演出 :田尾下哲
装置:幹子 S.マックアダムス
衣裳:半田悦子
照明:沢田祐二
音響:小野隆浩
合唱指揮:安部克彦
副指揮:石﨑真弥奈 沖澤のどか 林直之
コレペティートル:石野真穂 中原達彦 矢田信子
ドラマトゥルク・字幕:長屋晃一
演出補:田丸一宏
所作指導:市川笑三郎
原語指導:ミヒャエル・シュタイン
題字:武田双雲
宣伝美術:FORM::PROCESS
台本翻訳:庭山由佳
プロダクション・マネージャー:大平久美
舞台監督:八木清市
キャスト
溝口:小森輝彦
父: 黒田博
母 :飯田みち代
若い男: 高田正人
道詮和尚: 三戸大久
鶴川 :与那城敬
女 :吉原圭子
柏木: 鈴木准
娼婦 :谷口睦美
有為子: 嘉目真木子
合唱:東京オペラシンガーズ
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団
タグ:三島由紀夫
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