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新国立劇場 演劇「スカイライト」 [お芝居っ!]

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物語が生まれそうな寂し気な街角を描いたイラストのちらしは草野碧の作↑

「スカイライト」は1947年生まれのイギリスの劇作家デヴィッド・ヘアの戯曲で、
1995年の作品、
イギリス版トニー賞と言われるローレンス・オリヴィエ賞を受賞しています。

今回の上演は新国立劇場の演劇部門芸術監督である小川絵梨子の演出で、
観たのは、そのプレビュー公演。
開演前に演出家本人が舞台で挨拶、
芸術監督の指針のひとつ「演劇の作り方の実験」として、
2回の試演の後、聴衆の反応も見て舞台を修正し、
作品の可能性を広げていきたいとの事でした。

舞台はロンドン郊外のアパートの1室、主人公キラの部屋。
30歳の独身女性で学校教師、遣り甲斐のある仕事で日々忙しく過ごしているよう。
階下から階段を上がって木の扉を開くとロフトっぽいワンルームの住居、
中央にはダイニングテーブル、玄関の反対側にはカウンター付のキッチン、
その脇にバスルームの扉とクローゼットの扉が並んでいます。
壁には上げ下げ窓が2つ、壁の反対側には簡素なベッドに1人掛けのソファ、
床には壁に沿って無造作に本が積み上げられています。
そんな舞台の4方向を客席が取り巻いています。
全体的に装置はエイジング加工がなされていてヴィンテージ風なのですが、
鍋や皿、特にスプーンがピカピカなのがとても気になりました。

舞台は見る限り、ロンドン市内のお洒落で優雅な広いロフトのようですが、
話が進んでいくと、
治安の悪い郊外の安アパートという事らしいです。

寒い時期、キラが重いスーパーの袋を持って帰ってくる所から話は始まります。
電気ストーブを点けて夕食の支度を始めるところに最初の訪問者エドワード、
8年ぶりの再会を喜び合う二人。
18歳とすっかり大きくなったエドワードはキラに、
「妻を亡くして不安定な父トムを助けて欲しい。」と言い部屋を出ていく。

次にトムがやって来る。
そして二人の会話の中でこれまでの経緯がはっきりして来ます。
18歳で一人ロンドンに出て来たキラはレストランの求人張紙を見て、
ウェイトレスになるものの、
その女主人でトムの妻であるアリスに人柄を買われ、店を任される事に、
そして三人の共同生活が始まりますが、
やがてキラとトムは不倫の関係に、
6年後に発覚した時、キラは二人の元を去ったのでした。

キラはキッチンでパスタを作りながら、
トムはウィスキーをチビチビと飲みながら、
それぞれの想いをぶつけ合います。

そして二人は同じで部屋の、トムはベッドで、キラは木箱をテーブルに、
学校の採点をしながら朝を迎え、
キラはトムに家へ帰るように促し、タクシーを呼びます。

トムが去った後、再びエドワードが現れ、大きな荷物を持ってきます。
早朝のサプライズにキラの心も和み幕となります。

素晴らしい舞台でした。
演劇でこんなに集中して観られた事もなかったように思います。
まずは脚本がよく出来ています。
へんなオチを付ける事なく、ギャグで笑いを誘う事なく、
日常的な会話で価値観の違いや、経年で思考の変化によるすれ違い、
社会批判や現代社会の問題点を生活に結び付けて取り上げたり、
その内容に、全く耳が離せません。
また、二人だけの会話なので、
プライバシーを覗き込んでいるような軽い罪悪感もあります。

その上、舞台からは目も離せません。
奈落からの階段で平土間をアパートの上階に見せる手法や、
実動キッチン。
水も出れば火も点きます、
紅茶からは実際に湯気も出てるし、
野菜も本当に切っているし、パスタも茹でてます。
手元に目が行き過ぎて会話を聞き逃す事もありました。
また、深夜には外で雪が舞う幻想的なシーンも。

そして役者。
キラを演じたのは蒼井優33歳、
休憩を挟んで2時間半、出ずっぱりのしゃべりっぱなしです。
普通に考えてもそれだけで超人的ですが、
表情も豊かだし、内に秘めた想いがにじみ出すようで、迫力も感じます。
バスタオル1枚に濡れ髪で部屋を駆け抜けるシーンもあり、
まさに体を張った舞台という感じでした。

不倫の相手役トムは浅野雅博46歳、
文学座の俳優なのでベテラン、安定感と安心感があります。
役柄はレストランオーナーから成功した事業者で、
キラに言わせると拝金主義の成金になってしまった人。
悪い人ではないけど言葉の端々が鼻につくタイプ、
未練がましさも滲ませる仕草や表情もさすがです。

エドワード役は葉山奨之22歳。
笑顔のイケメンで、いるだけで舞台が明るくなります。
台詞を噛んだり微妙な間があったりして、
舞台が止まってしまうのでは、と心配になるところもありましたが、
かえって舞台に緊張感を与える効果もあったように思います。
全員が劇団俳優でこうはいかなかったでしょう。

本公演ではすすけたスプーンになっている事を望みます。


2018年12月1日 新国立劇場 演劇「スカイライト」
会場:小劇場
 
スタッフ
【作】デイヴィッド・ヘア
【翻訳】浦辺千鶴
【演出】小川絵梨子
【美術】二村周作
【照明】松本大介
【音響】福澤裕之
【衣裳】髙木阿友子
【ヘアメイク】鎌田直樹
【演出助手】渡邊千穂
【舞台監督】福本伸生
 
キャスト
【キラ】蒼井優 
【エドワード】葉山奨之 
【トム】浅野雅博

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